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寒記亭日記

日々の事を色々

論文捏造 (中公新書ラクレ)

 

論文捏造 (中公新書ラクレ)

論文捏造 (中公新書ラクレ)

 

 この本は,高温超電導において次々と画期的な,世界を一新するような成果をあげたと論文を書き続けた人物の登場から,その成果への疑惑が強まり,そして捏造であると断定されるまで―のみならず,なぜそのような事が起こったのか,それを食い止めるための仕組みがなぜ機能しなかったのかを関係者へのインタビューを元に構成したものである.

 

 まず前提として高温超電導とは何かについてごく簡単に書いてみる.電気が流れるときには抵抗が存在する.この電気抵抗は発電所から家庭・工場へと電気を運ぶ際にも発生し,そのロスは無視できない量になっている.

 この電気抵抗が,超電導体では0となる.他にも多くの事が起こるのだが,問題はこの超電導が発生する温度が極めて低温であることだ.しかし,これが比較的高温でも発生する物質が存在するとしたら,そのメリットは計り知れない.

 この本で取り上げられている「捏造」は,その高温(といっても,氷点下130℃と一般的な感覚では低いのだけれど)超電導についての研究である.

 

 実際にどのように自体が推移したのかは読んでもらいたい.私はこの本を読んで不正の舞台となったベル研究所の対応と,不正を行った研究者の言動への興味を持った.研究者の不正に対し,研究所はどこまで責任を負うのか.共著者に責任はないという結論は正しいのか.特に,高温超電導の研究で以前から有名であり,この研究において「彼が共著者なのだから」と多くの研究者が信じる要因ともなった人物が,全く何の責任もないと言えるのだろうか,と.

 また,不審な点を指摘された際に「これはミス」「間違えた」と繰り返し,論文の元となった重要なサンプルを「なくした」といい,大学時代から捏造をしていたのではと疑われているこの研究者―彼は,何を思ってこのようなことを起こしたのだろうか,と.

 この本を読んで感じることは他にもある.著名な学術誌はなぜこの捏造を見抜けなかったのか,多くの世界の研究者が疑念を抱きつつなぜ捏造だと指摘する声があがらなかったのか.

 読み終えた時に,今,我が国を騒がせているあの事件が浮かぶだろう.